中国山地のプロレス興行

JR西日本が芸備線(一部区間)の廃止を含めた今後の在り方を沿線自治体や住民と考える組織を設ける方針を固め、広島支社が8日に庄原市に対し、岡山支社が新見市に夫々申し入れしたことがローカルニュースで報じられた。同日JRと広島県との会談も予定されていたが7日の素破抜きを受け、話し合いは早速拗れた(顛末)。


公開中の公式最新データによれば、芸備線の旅客輸送密度(2019年)は1,323人/日だが、区間別だと広島市域の通勤圏が凡そ8,000人/日で狩留家駅を境に1,000人/日を割り込む。今回JRが沿線自治体に協議を申し入れた旧三神線部分については100人/日を割っている。

国鉄再建法で規定された特定地方交通線(第2次廃止対象まで)の水準が2,000人/日であったことを踏まえれば、如何にJRが努力してきたか判るだろう。尤も相応の経営努力はあっただろうが、近畿圏や山陽新幹線並びに関連事業の売上依存の体制だったことがコロナ禍に因る減収で強調された。JRは公共交通機関である前に営利追求の民営企業なのだから不採算案件は改廃しなければならない。現状で既に東城町から庄原市、広島市への旅客輸送は高速バスが主役であり、新見~東城の通学生もバス転換可能な人数だ。


当該路線の「今後の在り方についての協議」に対して沿線自治体は非常に敏感になっている。昨今の時勢から首長たちは過敏な反応といっても過言ではない。利用促進策と並んで当該鉄道路線存廃の是非が含まれれば必ず揉めるが、廃止の可能性についてJR側の回答は「現時点で決まったものはない」が常套句だ。まぁ、そう言うしかないよな。


3日の「おろち号」運行終了予告に関連した報道の中でも路線の存廃について米子支社長から同様の発言があったばかりだが、木次線については国鉄再建法で規定された特定地方交通線の廃止対象とされる水準の利用率だったにも関わらず、当時は代替輸送道路が未整備であったことを理由に免除されていた。並行する国道314号は92年に開通したが、この間に大本営であった国鉄が解体(87年)され、廃止対象とされた特定地方交通線の全廃が完了(90年)していた。

国鉄末期からの廃線ラッシュは一旦落ち着いたが木次線の将来が安泰な訳でもなく、国道275号の整備が終わり95年には(同様の状況だった)深名線がバス転換されたことを受けてか、98年に前述の「おろち号」運行が始まった。


観光集客の意味では相応に成果を上げてきたが、木次線利用促進の意味を履き違えていたな。根本的に日用の集客ができなければ営利企業がインフラを維持することは不可能だ。木次線の輸送密度はJR初年度の87年が663人/日、19年が109人/日であり、特定地方交通線が規程された1980年から40年間ジリ貧のままである。区間別の数字は公表されていないが、出雲横田駅あたりで区切れば南端の山岳区間は一桁ではなかろうか。近年は大雨や積雪による運休も頻発しているが、代行輸送がタクシー(要はデマンド制)で事足りてしまうのだ。


沿線自治体は本来であればJRに対し赤字分を充分に補填するか、3セク企業を設立して運営転換するか、せめて上下分離でインフラ整備を受け持つくらいの負担をして然るべきだが、「おろち号」の運行に関する最低限の補助金供出で誤魔化し、JRにはインフラ整備を含めた路線の維持を促す圧力を四半世紀に渡りかけ続けてきたのだ。自治体側は現行車両の再整備或いは後継車両導入に対し補助金供出を申し出ているようだが、JRは運行の継続自体を否定しており、これまで甘受してきた関係を清算したがっているようだ。


今春バス転換された日高本線のプロレスよろしく沿線自治体にしてみれば、3県の知事や各首長は選挙対策もあるから容易に廃線には同調できないだろうが、JRは20年代しかも前半のうちに決着させる腹積もりだろう。


不採算ローカル線の在り方を見直すことのジャブを繰り出すのは10月予定のダイヤ改正だろうが、大幅減便を事前予告することで沿線自治体の出方を窺った状態だな。中国地方に限らず北陸地方でも既に動きが出ている。そして当該各沿線の検討会、協議会は7月発足予定と報道(筆者確認は岡山、広島、福井)されている。

何れにせよ、先ずは減便したところで大勢に影響ないという実績を示すことが目的だろうが、これを複数年積み上げて既得権を主張する老害(支持者)に実態を理解させ、廃止に漕ぎつける算段だろう。


せめて国鉄を民営化するときに上下分離にしておけば、並行する高規格道路を整備する序に鉄道も高速近代化できただろうに。ふるさと創生事業のとき景気よくばら撒いた金で、ちったあマシにできたんじゃねえのか。後の祭りだけどな。



旧・ここは無人駅です。と、駅員から説明を受けたマニアな僕は困惑を隠せなかった。

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